いま一番ニーズの高いアジャイルのスキルとは!?
日本時間2023年10月20日(金)にScrum Allianceから、 "Skills in the New World of Work" というレポートが公開されました。
そして日本時間2023年12月7日(木)に、上記レポートに関するScrum Allianceのウェビナー "A deep dive into the Skills in the New World of Work Report" が開催されたので参加してきました。
色々と示唆に富んだ内容でしたので、上記レポートとウェビナーのポイントを、自身の所感も含めてまとめてみました。
この記事は、あくまで私の目線でのまとめ・所感です。一次情報に当たられたい方は、ぜひ上記レポートをご覧ください。
レポートの目的/メインテーマ
このレポートのメインテーマはズバリ、"Which skills are most in demand today?" です。
日本語に意訳すると、「いま一番ニーズの高い(アジャイルの)スキルは何か?」 といったところでしょうか。
Scrum AllianceとBusiness Agility Instituteとが手を組んで、このテーマについて調査・分析した結果がこのレポートになります。
レポートのポイント
アジャイルの普及とニーズの多様化
このレポートでは、各社の事例発表や求人のJob Description(JD)*1などから、「現代のソフトウェア開発においてアジャイルが世界的に当たり前になってきている」として、"Agile has won." と明記しています。
一方でこのことは、イノベーター理論のLate Majorityにもアジャイルが届いたことをも意味します。その結果として、アジャイルへのニーズも多様化しつつあるともこのレポートでは触れられています。
レポートではこのことを、「トヨタの自動車を購入する人とアストンマーチンを購入する人とでは自動車に求めているものが違うから、それぞれ異なる対応が必要だ」と、自動車のメタファーを使って表現しています。
スクラムマスターやアジャイルコーチも、過去にEarly Adopterを相手していた時と同じアプローチのままではダメだということのようです。
ニーズの高いアジャイルのスキルの傾向
各企業のニーズを調査したところ、以下のことが言えるとのことでした。
- "Functional skills" よりも "Human skills" のニーズが高い。
- "Agile Acumen" のニーズが高まってきている。
- 一方で各企業は、Human skillsのある人材を求めていることをJDなどで明記していないことが多い。
- 結果として、後述する需給ギャップが生じているそうです。
"T" から "π" へ
このレポートでは更に、"The importance of 'and'" と表現し、単一の強みを持つ「T字型人材」よりも、複数の強みを持つ「π字型人材」*3へのニーズが高まりつつあることが記されています。
このレポートでは、π字型人材の具体例として以下のものを挙げています。
加えてこのπ字型人材のニーズの高まりは、「特定のロールの業務をこなせるか」よりも「ロールを超えて業務をこなせる十分なスキルがあるか」を企業が見ていることを表しているとのことです。そのため我々も、ロールベースではないスキル向上が必要なようです。
(参考)π字型人材の先
ちなみに参考までに、π字型人材よりも複数の強みを持つ人材を表す表現がないかをChatGPTに確認してみたところ、「E字型人材」(複数の軸があることを強調)および「W字型人材」(深さと幅があることを強調)があるのでは?とのことでした。
スキルの需給ギャップ
一方で今回の調査では、企業が技術スキルとHuman skills、特にAgile Acumenを併せ持つ人材を探している一方で、アジャイル実践者はコミュニケーション・チームワーク・コラボレーション・マインドセットのスキルを特に高めていることが多いというギャップも明らかになりました。
一方でこのことは、アジャイル実践者視点では、どういうπ字型人材になれば良いのかの目標を立てやすいとも言えるのではと思いました。
補足: スキルとロールの共通語彙
レポート巻末のAppendixに、"Skill Master List" と "Job Titles" がついています。前者は "Human skills" および "Functional skills" のリストで、後者はアジャイルコーチ・スクラムマスター・コンサルタントといったジョブ・ロールのリストです。
コーチング実施時やアジャイル実践者同士での会話の際、共通語彙およびそのリファレンスとして活用できそうな気がしました。
*1:LinkedInで、アジャイルコーチのJDのテンプレートが公開されているんですね。一般化の証左かもです。 https://business.linkedin.com/talent-solutions/resources/how-to-hire-guides/agile-coach/job-description
*2:Jiraなどのアジャイル系ツールのスキルも、こちらに含まれます。ウェビナーでは、こうしたツールを単純に使えることに加え、他の人に使い方を教えられること、またシステム管理者として権限管理などを行える人が求められているとのことでした。
*3:似たような表現として「H字型人材」というものがありますが、こちらは「強い専門性があり、かつ他の専門分野を持つ人との連携を図れる力を持つ人材」を指します。
原因不明の腹痛との格闘記録 -治療編-
今年2023年9月下旬に肋間神経痛と診断され、鍼灸の治療を開始しました。
(参考)診断されるまでの紆余曲折。
劇的に症状が改善しつつある一方で、新たな課題も見つけたのでメモです。
Keep: 症状の改善
鍼灸(1回1時間、週2回)とウォーキング(1回30分、週3-4回)とを続け、1月半で右脇腹の痛みが治療開始当初の3割程度にまで減少してきました。
治療開始前は自宅近所の坂道を歩くだけで脂汗を出していましたが、いまではそれもなくなり、信号などでのちょっとした小走りも全く問題なくできるようになりました。
鍼治療すごい
鍼治療を継続して受けていると、睡眠不足や食べ過ぎについてもすぐに発見され、軌道修正が容易です。
先生曰く、特定部位の体温の変化で把握できるとのこと。まぢか。
Problem: 新たに見つかった課題
- 運動をしないと食欲が出過ぎる
- 運動で血流を増やすことでストレスが発散できている一方で、毎日運動するわけにもいかないので休養日を入れると、それがストレスになって過食してしまうことが多いです。
- 友人から「銭湯が良いかも」とのアドバイスを受け、近々トライ予定です。
- 思っていた以上に体力が低下している
- 人との繋がりを欲する
- 独り身で話し相手がいないため、孤独感で押しつぶされそうになることが度々あります。
- PTSD、見つかる
- 寝不足
- スマホアプリ『パワフルプロ野球 栄冠ナイン クロスロード』をやりすぎて、一時寝不足に。流石に自業自得。
まとめ
当初の症状が相当悪かったことを加味しても、ここまでの改善は鍼灸の先生的にも劇的な改善とのことです。一方で体力不足な面がまだあるので、せっかくなので腰を据えてしっかり治療しきろう!と、鍼灸の先生・会社の産業医の先生とも合意しています。今のところ、早くて12月、遅くても年明けには仕事に戻れそうな手応えです。
*1:新たにAWS Certified Data Engineer - Associateの資格ができる一方で、AWS Certified Data Analytics - Specialtyが2024年4月9日に廃止されるそうです。諸行無常。
原因不明の腹痛との格闘記録 -原因判明編-
今年2023年6月下旬に右脇腹に強い痛みが現れ、8月上旬から会社を休職し病院での検査・治療を続けています。この度、ようやく原因が判明し、治療が前進し始めました。
今回の病気に際して、原因不明の腹痛に悩まれている友人・知人が周囲にそれなりにいることが分かったため、原因特定・治療のヒントになればと、自身の闘病記録をまとめてみました。
経緯
- ゴールデンウィーク前後から、右脇腹に違和感を感じ始めました。ただ、気にしなければ我慢できる程度だったこと、また筋トレや仕事のしすぎの自覚もあったことから、休養を増やして様子をみていました。
- 6月初旬の健康診断で、腎臓結石と胆道拡張症の可能性を指摘され、至急消化器内科での検査をするよう勧められました。
- 上記の健康診断結果を受け取った6月下旬から、消化器内科での検査を開始。腹部のCT・MRI、および胃・大腸のカメラの検査を実施したところ、(1) 腎臓結石は無し、(2) 胆道拡張症は経過観察でOKとなった一方で、(3) 膵管非癒合が見つかりました。一方で、検査を続けていく過程で、右脇腹の痛みが日々強くなってきて、仕事に支障が出るようになってきました。
- 具体的には、それまでならば15分で書けた仕事のレポートが、痛みで集中できずに3時間近くかかったりするようになってきました。
- 一方で上記検査結果は、通常右脇腹の痛みを引き起こすものではないとのことでした。
- 7月下旬から会社の産業医と相談を続け、内科的な問題がない場合に次に疑われるのはメンタルだとのアドバイスを受け、メンタルクリニックを紹介されました。併せて、産業医の勧めもあり、検査・治療に専念する観点から、8月上旬に会社を休職しました。
- 8月上旬からメンタルクリニックの受診を開始したところ、次のように診断されました。
- 特段「うつ」などの症状はみられない。
- 首・背中・腰・脚など全身に、強い凝りと冷えが見受けられる。
- 通常メンタル由来で右脇腹の痛みは出ないため、改めて別の病院で消化器内科の検査をし直した方が良い。
- 8月中旬から9月中旬にかけて、別の病院の消化器内科で再検査を受けました。膵管非癒合の痛みが出るケースを疑われ、1月近く検査を続けたものの、痛みにつながる明確なものは見つかりませんでした。医師からは、内科的にはこれ以上力になれないこと、可能性として外科的な問題の可能性があることを伝えられました。
- 産業医に上記を説明したところ、自律神経の機能不全の観点から、肋間神経痛の可能性が急浮上。その筋で東洋医学の鍼灸院を紹介され受診したところ、痛みの原因を特定でき、本格的な治療を開始できました。
痛みの原因
- 右半身全体の筋肉に、強い緊張がある
- 結果として全身のバランスが崩れ、特に腹部に痛みが集中してしまっているとのことでした。
- 肉体・精神両面で、強い疲労がある(HP・MPともに1と言えば伝わるでしょうか?)
- 胃腸の働きが低下していて、上記の症状を悪化させ回復を遅らせている
- 睡眠不足が体にはっきり出ていると言われました😗
- 水分の過剰摂取(1日5リットルくらい)
- ボディビルディング・ダイエットの観点で勧められ、10年以上続けていたこの習慣が、いまの体には毒だとのことでした。
当面の治療方針
- 鍼灸(週2-3回程度)
- ウォーキングレベルの有酸素運動は推奨
- 水分摂取量を、それまでの半分程度にまず減らす
- 睡眠の質・量を増やし、肉体と精神の疲労を減らす
- じっくり休養を取る(急いで復職するよりは休むことを優先した方が良いとのこと)
- 仕事以外の、普段できる趣味を見つける
- ひとまず、スマホで麻雀をやり始めています
まとめ
西洋医学オンリーでは、原因を特定できないまま痛みを抱え続け、社会の表舞台からの退場を余儀なくされるところでした。良い産業医と鍼灸院に恵まれ、今のところ非常に運が良いようです。
謎の痛みが出ても、治療を諦める必要はないです。
「笑顔の合意」のテクニックの裏側:RSGT2023での発表の補足
2023年1月12日(木)にRegional Scrum Gathering Tokyo 2023 (RSGT2023) にて、 『「笑顔の合意」のテクニック』と題して、噛み合わない会話と対立を克服するためのスキルについてお話させていただきました。
特にこの2年ほど、実務でのコンフリクトマネジメントの必要性に迫られ、多くの書籍・文献にあたり実験を繰り返していました。その知見にある程度の再現性を見出し、実務での効果を実感し始めたことから、今回の発表に至りました。
このブログでは、RSGT2023ではお話できなかった、より具体的な学習の動機、失敗の事例、転機、および今後の方向性について書き出してみました。
1. 学習の動機
2020年の後半から、複数の同僚との対立に悩まされていました。より具体的には、
- 声をかけてもメールを送っても、全く反応してくれない同僚
- システム障害が起きてすぐに相談したいにも関わらず、「今は忙しい」の一点張りで話す機会をくれない同僚
- 口では「分かった」「あなたの求めているものは分かっている」と言うものの、私の全く求めていない行動をし続ける同僚
こうした同僚たちに対して私は、「これだけ私があなた(たち)に気を遣っているのに、何で分かってくれないんだ」と、今思い返すとかなり攻撃的で相手を責める言動をしていました。*1
そうした私の振る舞いに気付いた上司が私に紹介してくれたのが、以下の記事でした。
この記事が、私がNVC(Nonviolent Communication)を知るきっかけでした。
それ以来、自身の振る舞いの改善を探求し始め、アンガーマネジメントにも視野を広げていきました。
2. 失敗、そして退職
NVCやアンガーマネジメントを学習し、上述の同僚たちとの対立解消を試みましたが…失敗だったと言えます。
例えば、システム障害が起きてすぐに相談したいにも関わらず、「今は忙しい」の一点張りで話す機会をくれない同僚のコアビリーフ・感情・ニーズを聞き出していくと、以下のことが分かりました。
- 障害のサポートをする際、情報が錯綜している状態で話をすると、却って相手(この場合は私)を混乱させる恐れがあり、それを避けたかった
- 一方で、そうした考えがあることを説明することが相手に迷惑になることだと思い込んでいて、「今は忙しい」という返答をし続けていた
- 「今は忙しい」という返答は、むしろ相手を気遣った対応のつもりだった
- 情報が錯綜している状態でも話をしたいというニーズを他者が持っていることには、(私から)指摘されるまで思いも寄らなかった
- 一方で、私からの指摘で改善を始めると、私の成果になってしまう点が嫌だ
特に最後の点がネックとなり、最終的な対立解消には至りませんでした。いま思うと、お互いに会社での立身出世が第一にあったことが大きかったと言えます。
この対立が直接の原因ではありませんが、色々と悪いことが重なり、上述の対立を克服しきれないまま、会社を退職しました。
3. 熟達へのフォーカス、そして成功
会社を退職し、気分転換で温泉旅行に出かけた際に、以前からじっくり読みたいと思っていた下記書籍を手に取ったことが大きな転機になりました。*2
この書籍に書かれていた「Purpose -> Mastery -> Purpose」が長期的で持続的なモチベーション(モチベーション3.0)になるという考え方が、それまで立身出世で視野が狭くなっていた自分自身に気付く大きなきっかけになりました。確かに以前は、アジャイルやDevOpsなどで新しいことを試しては周囲をびっくりさせ喜ばせるということに面白みを感じて行動していました。しかし前職の末期は、マネージャーになり立身出世に汲々とし、周囲に喜んでもらえていたとはとても言えない状態でした。
加えて、金銭的報酬が長期的なモチベーションや幸せにならないという研究結果に接したことも、自分のそれまでの数年の振る舞いを捨てようと決意する十分なきっかけになりました。
立身出世の欲を捨て、自分自身のスキルを伸ばし、他者に貢献することの喜びに人生をフォーカスする。Daniel Pinkは、私の生き方を矯正してくれました。
Daniel Pinkから教えられた「自分自身の成長によって他者の喜びを引き出そう」という考えから、改めてアジャイルコーチングについて学ぼうと下記書籍を読んだことも、「他者のオーナーシップで課題解決を手伝う」というコーチングの再確認とアジャイルコーチとしてのスキル向上につながりました。
こうした積み重ねを経て、転職先でのアジャイルコーチングの仕事の一環でチーム内の対立を克服した例の一つが、今回RSGT2023で発表させていただいた事例になります。*3
4. 今後の方向性
今後も、発表させていただいたスキルの研究と検証を進め、さらに再現性高くかつ学習しやすいスキルに整理していきたいと考えています。
加えて今年は、Scrum AllianceのCertified Team Coachを取得しようと考え、準備を進めています。
さらに2024年には、一連の知見・スキルを整理して、海外のカンファレンスで発表したいとも考えています。
さいごに
ここ数年特に、怒ることが大きなマイナスになる時代になったなと感じています。
一方で、他者との噛み合わない会話や対立自体は、増えることこそあれ、劇的に減ることはないとも思っています。
そういう時代に、対立を減らして双方が喜び合える可能性を高められるスキルを身につけ伸ばすことは、ひょうげていて乙なのではと思っています。
参考書籍
アンガーマネジメントで真っ先に読んだのはこちらでした。
NVCは、この2冊を特に繰り返し何度も読み直しました。
マインドフルネスは、この2冊を特に繰り返し何度も読み直しました。
【検証】ブルーグリーン・デプロイメントはなぜ青と緑なのか?
DevOpsでお馴染みのブルーグリーン・デプロイメント。
先日、はまーんさん(@track3jyo)のこちらの資料を読ませていただいて、そういえばなぜ青と緑なのかな?と気になり調べてみました。
検証結果
こちらのサイトに、まんま答えが書かれていました。
意訳すると:
- 当初は
environment A/environment B
と呼び分けていた。 - しかしこの表現だと、
environment A
の方が優位だと誤解されかねないため、Blue/Green/Orange
の色で呼び分けることとした。- 当初はOrangeの代わりにRedにしようとしたけれども、それだとエラーか何かだとさらに誤解されかねないため、Redは却下に。
- 実際にやってみると、2種類で十分だと分かり、Orangeが抜けてBlueとGreenが残った。
結論
元々 environment A/B
と呼んでいたものを、Aの方が優位という誤解を避けるために色で表現した結果、Blue/Green
となった。
おまけ
命名者は、Daniel NorthとJez Humbleの両名とのこと。 特に後者は、書籍『Continuous Delivery』を執筆し、ブルーグリーン・デプロイメントを採用するに至った障害について書かれていたりします。
チームの成長に見る、アジャイルコーチとしてのアンドンの引き方
アジャイルコーチとしてチームの成長を支援していると、アウトプットの急増や意思決定スピードの向上など、チーム・メンバーの急激な成長を目の当たりにする機会があります。その瞬間は、コーチにとっての至福の時間でもあります。
一方で、コーチの予想や期待に反して、チーム・メンバーの成長が停滞しているように見える時もあります。そのような場合、コーチは強いストレスを感じてしまうことがあります。
今回は、チーム・メンバーの成長が停滞しているように見える時のコーチとしての心構えと、ストレスを感じた際の対応策について書いてみます。
1. 停滞しているように見える例と、その裏側で起きていること
- チーム全体に質問を投げかけても、発言・リアクションがない/非常に少ない
- チーム・メンバーの当事者意識が足りないとも取れますが、それ以外に「そもそも誰に向けた質問なのかが不明確なので反応できない」「お互いをまだ良く知らないので反応をためらってしまっている」「反応の仕方を熟慮して遅れているだけ」といったことも考えられます。
- 何かアクションを起こそうとする際、都度コーチに許可を求めてくる
- 指示待ちの文化から脱却できていないとも取れますが、それ以外に「判断の根拠が明確でないので困っている」「アクションを起こすことに不安を感じている」「勇気を出すのに慣れていないだけ」といったことも考えられます。
- アドバイスをしても、すぐにそれを取り入れて結果を出そうとしない
- チームやメンバーごとに、理解や習得のステップは異なります。アドバイスした自身と同じステップ・スピードで動くことを期待すること自体が間違いです。
- むしろ、「言うことを聞かない」と感じてしまう場合、それはコーチとしてのアラート・危険サインです。
2. コーチとしての心構え
そもそもコーチは、チームのオーナーシップを持ちません。チーム・メンバーが中心であって、彼女ら/彼らを無理やりコーチの考える理想に従わせるのは、コーチングではなくただの強制です。
アジャイルコーチングに関する書籍『Coaching Agile Teams』でも、コーチのチームへのあるべき接し方を「Light-touch」と表現し、コーチはチームのオーナーシップを持たず、あくまでチームに委ねる形で振る舞うよう明記しています。
具対的な振る舞いとしては、コーチの気付きとして問題の存在やヒントを示すレベルに留め、指示や解法は出さないのが望ましいです。
3. コーチとしてアンドンを引く時
とは言うものの、コーチも人間なので、ストレスは感じます。ストレスに早期に気付き対処できる仕組みがあった方が良いでしょう。*1
具体的には、以下のことを感じ始めたら、コーチとしてのアンドンを引いて、仕事を一旦止めて、自身を振り返ってみることをオススメします。
- チーム・メンバーの成長の停滞
- コーチとして成果を出すプレッシャー
- チーム・メンバーの振る舞いが「理想的」ではない
というのも、上記を感じること自体、コーチとしての自身のメンタル面での変調のサインです。メンタルの不調は、コーチのプロセスのバグのようなものです。なので、スクラムフレームワークなどでのチームのプロセス改善と同様、自身のプロセスも定期的に見直しましょう。今の作業を止めてでも。
4. まとめ
コーチは、チームのオーナーではありません。また、チーム・メンバーの成長の程度とスピードは、各々異なります。そこにコーチとして貢献できるポイントはあっても、何かを強制するポイントはありません。
それでも、コーチもストレスは感じます。チーム・メンバーの成長などに焦りや苛立ちを感じ始めたら、コーチとしてアンドンを引くサインです。一度仕事を止め、自身を振り返りましょう。
コーチとしてのinspect & adaptの対象は、基本はチームですが、自分自身を対象にしても良いでしょう。少なくとも、してはダメだと明記している論文・書籍を、私は見たことがないです*2。コーチとしてのスキルを自身の改善にも適用して、よりチームに貢献できるよう「油を指す」ことも、時には必要です。
先ほど油を指した人より。
参考書籍
アジャイルコーチ、および広くコーチングに関してまとまった書籍です。コーチがチームのオーナーシップを持たないことや、チームの成長度合いによってteaching・facilitating・advisingを使い分けようといった、実践的な内容が多く含まれています。また、Scrum AllianceのCertified Team Coach (CTC)の取得に際しての参考書籍としても紹介されています。ちなみに、英文はちょっと難しめです。人それぞれ前提とする認識・信条が異なることと、そのズレが怒り・ストレス・トラブルになることが明記されています。「他者は自分と同じであるべき」という、我々人間がつい思いこみがちな「認識のズレ」を正すのに良い書籍です。
上述のアンガーマネジメントと一緒に読むことで、他者との対立を生じさせにくいコミュニケーション方法を習得することができます。また、人間観察にも良いヒントが多く含まれています。
ポーランドのDevOpsDaysに登壇させていただきました
4/27(水)に、ポーランドのクラコフで開催されたDevOpsDays Kraków 2022に、スピーカーとして登壇させていただきました。
経緯
ポーランドの同イベントの関係者から、3/25(金)夜にLinkedIn経由でコンタクトをいただきました。世界中で開催されているDevOpsDaysの過去の登壇者リストから、私を選んで声をかけてくれたとのことでした。確かに過去に、東京および台湾で開催されたDevOpsDaysで登壇させていただいたことがあります。
発表内容および要点
同イベントのセッション情報は、こちらになります。(英語)
当日の発表資料は、こちらになります。(英語)
同イベントの開催要旨に、
meet experts and get unique knowledge that you won’t find in any academic books (意訳)専門家にあって、学術書には載っていない独自の知見を得よう
とあったことから、自身の過去のアジャイルコーチ・DevOps実践者としての事例を中心にお話しすることとしました。また、過去の同イベントの発表内容の多くが「ツール」に関するものであったことから、DevOpsの組織・文化の変革やプラクティスの側面にフォーカスすることで、独自性を出すこととしました。加えて、近年研究しているチームトポロジ、NVC(Nonviolent Communication)、Four Key Metricsなどを活用して、自身の事例から「再現性」のある知見を抽出することも狙いました。
また、要点は以下の通りです。
- 最初の事例は、まだモバイルアプリ開発でDevOpsが一般的ではなかった2013年に、手動ビルド・デプロイによる長時間作業・失敗の多発による開発者・ステークホルダーのフラストレーションを、CI/CDの仕組みを自作することで解決したという事例でした。
- 2つめの事例は、DevとOpsとの間のサイロによってCIサーバーの増強がスムーズに進められなかった問題を、IaC(Infrastructure as Code)で打破して、Dev・Ops双方の生産性を高めたという事例でした。
- 3つめの事例は、複数マイクロサービス連携時の本番障害多発による各チーム間のギクシャクしたコミュニケーションを、APIテストとObservabilityで埋めた事例でした。
- いずれの事例も、「人の問題」に着目し、それを自動化などの技術によって解決したことが共通点でした。
- その共通点からの「再現性ある知見」として、以下を挙げました。
- 「人の問題」を見つけるために、NVCが有効であること
- 自動化などの技術の効果測定には、Four Key Metricsが有効であること
- 組織・文化の変革やプラクティスを考える上では、「自身および関係者を幸せにする観点でDevOpsを活用しよう」ということが要旨でした。
今回の発表を後押ししてくれたもの
今回の登壇は、知人のプロレスラーと、会社の上司の後押しのおかげでもあります。
まず、知人のプロレスラーからは、「ただいい試合をするだけではダメ」「試合をしていない時こそ、対戦の経緯の説明や自分からのテーマ発信など、ファンに関心を持ってもらえるような仕掛け・振る舞いが必要」「だからこそ勇気を持って一歩踏み出すことが必要」ということを教えてもらいました。ポーランドからオファーをいただいた際、「面倒だな」と安易な方向に流れそうになった私の気持ちを奮い立たせてくれたのは、この知人のプロレスラーのおかげでした。
また、会社の上司に今回の登壇オファーの件を相談したところ、「自分がやりたいと思っているのであれば、ぜひトライしよう」と言ってもらい、また会社の手続き面についても説明いただき、結果スムーズに登壇することができました。
まとめ
- DevOpsDaysは、世界中で情報のやり取りがされています。海外および英語での登壇を希望されている方は、まずDevOpsDays Tokyoで登壇することから始めてみてはいかがでしょう?
- 社外への発信は、自身のプレゼンスおよびスキル向上の面で有益です。面倒くさがらずに、勇気を持って一歩を踏み出しましょう。
- 自分を後押ししてくれる周囲の人は重要です。そうした人たちとの関係を築き、また多く耳を傾けましょう。