The HIRO Says

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メトリクスを題材に勉強会が成立するかを検証してきた


2014年9月19日(金)に、渋谷の21cafeさんをお借りして、『第八回ゆるぎー メトリクスによる「見える化」のススメ: エッセンシャル・リーン』という勉強会(兼無料イベント)*1を開催しました。

先日のXP祭り2014の LT で予告していた、プロジェクトに関するメトリクスを題材とした勉強会の第一弾です。


なぜこの勉強会を実施したのか?

一番の目的は、私がここ数年実務を通じて蓄積してきたメトリクスに関する知見・考え方を、社外にも広めてみたいということでした。また、その威力の確認と改善点の検証のために、社外の方からの客観的な意見を伺いたかったというのもあります。


また、次のような背景・課題認識もありました。

  • 実務でメトリクスを活用したプロセス改善を行っていて、社内での実績が積み上がりつつある。
  • これまでの社外発表でも、メトリクスの効能については言及していた。しかしその後の反応を見る限り、そのエッセンスをあまり伝えきれていないな、という思いを抱えていた。
    • メトリクスだけをテーマにした発表が必要かも。
  • 先日参加した Agile2014 で、メトリクスに関する発表が目についた&自分と同じような考えを持つ人たちがいることが分かり、時代が自分に追いついてきたと考えた。*2
    • メトリクスだけをテーマにした発表をするべきタイミングが来たのではないか?


もともとてらひでさんからは、今年の初め頃から「ゆるぎー」への登壇依頼をいただいていたのですが、Agile2014 の登壇*3を終えてお話を受ける余裕が出来たため、この度実施の運びとなりました。


勉強会のポイント

簡潔に言うと、「自分たちの課題と成果を客観的な形で見せられるか?」かつ「関係者を納得させられるか?」に絞りました。

  • いま自分たちが抱えている課題は、本当に課題なのか?単なる思い込みだけで、裏付けがないものではないか?
  • その課題は、どうすれば見つけることができるのか?またどうやって他の人に見せることができるか?
  • 何を持って、自分たちは成果を出していると言えるか?
  • 課題や成果は、マネージャ・メンバーステークホルダー全員が欲する&共有できるものか?
  • 自分以外の人間は、どのような情報が欲しいのか?


イベントのタイトルは「ゆるぎー」ですが、元々セメントを仕掛けるつもりでいました。一方で、メトリクスに関する初めての勉強会ということもあり、最初から全てを語り尽くすことは無理だと分かっていたので、まずは上記に絞ることとしました。


勉強会の進め方

中川さんが既にある程度まとめて下さっていますが、改めて勉強会の実際の進め方と狙いを明記しておきます。

1.今回の参加目的を参加者へ質問する(5分、2名)

まず参加者の皆さんに、以下の質問をさせていただきました。

  • どういう目的意識・課題認識を持って参加されたのか?
  • 具体的に何について困っているのか?


これは、アイスブレークを兼ねながら、参加者の課題認識を事前に把握しておくことで、後続のワークショップをどのレベルに調整すべきかを把握することを目的としていました。


2.XP祭り2014のLT資料を紹介する(10分)

これは、「なぜいまメトリクス・見える化が必要なのか?」という課題設定の明確化・共有と、この後のワークショップでの考え方のヒントを提示することを目的としていました。


3.最初のワークショップを行う(10分)

まず全参加者に、自分がマネージャ・開発者のどちら寄りかを自己申告してもらいました。その上で、必ず全チームに最低1名はマネージャ寄りの方が参加する形でチームを作ってもらい、次の3点をチーム内で共有してもらいました。

  • 自己紹介
  • 自分が今課題だと思っていることはなにか?
  • その課題は、どうすれば「見える化」することができるだろう?


参加者全員の「現場」にそれぞれ課題・改善方法があるはずなので、それらをもとにワークショップをした方が実務のプラスになると考えました。ちなみに、今回の参加者30名強のうち、マネージャ寄りの方が10名近くと、当初想定よりもマネージャ寄りの方の参加が多いことが分かりました。


4.各チーム毎にメトリクスを考案してもらう(10分)

ここからが本番。各チームにメトリクスを考え出してもらいました。

  • 先のワークショップで出し合った課題のうちの1つを、そのチームの課題として取り上げる。
  • その課題に対して、どのようなメトリクスを取れば良いのかを考える。
  • 考えたメトリクスに対して、それがマネージャ・開発者視点から嬉しいものであるかどうか、また嬉しくなければどう改善すれば良いのかを話し合い、チームメンバー全員が合意するところまで持っていく。
  • 発表できる形にアイデアをまとめる。


ポイントは、単にメトリクスを考えるだけに留めず、マネージャ・開発者双方の視点をぶつけ合い、本質的に見ているものが違わないか?という気付きを得てもらうことでした。


5.各チームにメトリクスを発表してもらう(20分)

全チームに、自分たちの課題とメトリクス案を説明してもらいました。
以下、実際に出たアイデアを覚えている範囲で書き出してみます。

  • ユーザマニュアルにどの程度工数をかければ良いのか?閲覧回数と電話で問合せがあった回数を計測できれば、各マニュアルの有効度合いと修正優先度が把握できるのでは?
  • プログラムレビューが工数に見合っていないのでは?と指摘された場合の対処方法について。レビュー指摘回数と実際のトラブル発生頻度、またコードの品質ということで静的コード解析をしてみたらどうか?
  • CI サーバの有効性を、何を持って説明できるか?例えば、ビルドの失敗が増えてきたとしても、それは本当に良くないことなのか?


かなり実践的な課題とメトリクスが出てきていたこと、また多くが私も過去に悩んだものだったので、個人的にはこの時点でやった甲斐があったかなと。


6.メトリクスの振り返りと改善を実施してもらう(15分)

10分の休憩を挟んだ後、私なりのメトリクスの勘所(下記)を改めて紹介し、先の各チームの発表内容を踏まえて、改めて自分たちの考えたメトリクスについての振り返り&改善を行ってもらいました。


7.改善したメトリクスを発表してもらう(10分、2チーム)

時間が押していたので、2チームに絞って発表してもらいました。


8.宿題を出す!

本当は全チームに改善したメトリクスを発表してもらった上で、今回の勉強会での気付きを振り返ってもらいたかったのですが、時間的に難しい。一方で、今回皆さんに考えてもらったことは、その場限りで終わらせるのではなく、「現場」で実際に使ってもらって改善を繰り返して使い込んでもらいたいもの。そこで、皆さんには以下の宿題を出させていただきました。

  • 全員にブログを書いてもらう
    • 今まで分からなかったことは何か?
    • 今回のセッションで、何が分かるようになったか/分からなかったか?
    • 自分たちが現場で行えるネクストアクションは何か?
  • 実際にメトリクスを活用した結果を、後日のゆるぎーまたはブログで発表してもらう


今回の勉強会で気をつけたことは、「参加して面白かったで終わる人を0人にする」ことでした。せっかくの時間を使って勉強会に参加してもらっても、ただのお遊びで終わらせてしまっては時間の無駄。なので、絶対に全員に実務で使えるモノを持ち帰ってもらおうと、先の宿題を出した次第です。


気付き

実際に勉強会を開催し、また参加者の皆さんの意見を伺うことで、次のことに改めて気付かされました。

  • 何を見せれば良いかを考えることで、プロジェクト・物事を多面的に考えられるようになる。
  • メトリクスは、プロセス改善のための思考開始の入り口となる。
  • メトリクスは、自分たちの行動の成果を常に考えて考えて行動できるようになるきっかけとなり得る。
  • マネージャとメンバーとの間にある鋭い対立の存在に、改めて気付かされる。


私自身も、メトリクス単体に大きな意味があるというよりは、これをもとにプロセス改善を進めていけることに意義があると考えています。その点を複数の方からご指摘いただいた時は、正直この勉強会を開催して良かったなと、心の底から思いました。


参考資料

藤原大さんによる、私がメトリクスを使うきっかけとなった資料

私が楽天への入社を決意した資料でもあります。また入社後も何度も参考にさせていただき、「文句ばかり言うけれども具体的に何を欲しているのかを説明できないマネージャらに対して、メトリクスによる見える化で対抗する」という考え方に行き着きました。一方でこのメトリクス・見える化が継続的プロセス改善に非常に有益であることをその後体感し、私の「アジャイルコーチ」としての活動のベースとなっています。


情報処理学会での発表資料

2014年3月に発表した資料。課題をメトリクスで見つけてからアクションを取っていること、また改善を続けることでボトルネックが移動していく点をメトリクスで把握している点を明示。一つ一つの施策を実施・評価するにあたって、都度メトリクスを取っているのです。(このように取るのだ)


Agile2014 での発表資料(英語)

基本的には、情報処理学会の発表と同じです。


Agile2014 での Ken Power さんのメトリクスに関する論文(英語)

Metrics for Understanding Flow
スクラムバーンダウンチャートだけでは現状が見えず、マネージャもメンバーもフラストレーションがたまっていたこと、それを改善するために CFD などのメトリクスを活用して改善を行ったということが明記されています。英語ですが、メトリクスに少しでも興味のある方には、是非とも読んでいただきたい論文です。


Scrum and XP from the Trenches (by Henrik Kniberg)

http://www.crisp.se/bocker-och-produkter/scrum-and-xp-from-the-trenches
勉強会で説明した「Focus Factor」の引用元です。この他にも多くの「見える化」の実践的な方法が明記されているので、一読をオススメします。


今後の予定

  • 社内でも勉強会を開催予定です。Silver Bullet Club主催*4でね。。。
  • DevLOVE関西さんからコンタクトをいただいているので、11月以降お伺いするかもです。
  • 11月以降に仙台にも出張予定なので、可能ならばやりましょうか。

*1:ネタが分からない方はこちらをどうぞ。http://narumi.blog.jp/archives/12860460.html

*2:Agile2014に参加してみて分かった昨今の世界のアジャイル事情

*3:Agile2014で登壇してきました

*4:Silver Bullet など存在しない!ということを周知していく組織になる予定です