Agile2020公募採択とその歩み
世界最大規模のアジャイルのグローバルカンファレンス「Agile2020」に提出していた公募が採択され、登壇させていただくことになりました。2014年以来、2度目の栄誉です。
新型コロナウィルスの影響で、予定通り登壇できるかは正直不透明ですが、主催者によると、本稿執筆時点では予定通り開催するとのことです。
ちなみに、私のセッションの情報はこちらになります。提出した論文などは、こちらからご覧いただけます。
さて今回は、公募採択までの歩みについてまとめてみます。
動機と準備
Agile2014で採択された論文が、現在でも私たちの業務やチームの指針策定にプラスに作用していることが大きいです。個人・チームとして何か問題にぶつかった時に、考え方や解決策の引き出しとして活用できているのです。
一方で、前回の登壇から5年以上経過し、その間私もチームも多くのスキル・経験を蓄積してきました。そろそろ、蓄積してきたスキル・経験を整理して活用できるようにする時期だと判断し、昨年2019年の4月から行動を開始しました。
具体的には、以下のアクションを行いました。
- 業務上の気付き・考えたこと・取った施策・その効果などを、毎日メモとして書き溜める
- 業務中に書くことがポイントです
- 常に発信することを前提に、日々の業務を観察し実行していました
- 1週間おきに、書き溜めたメモを文章としてまとめる
- 1週間スプリント・ウィークリーリリースと書くと、イメージしやすいかもしれません
- 文章の通りが良くなったところで、実際に論文フォーマットを当てはめる
- 前回すでに論文のフォーマットを入手し、書き方を熟知しているため、早期からリリースできる状態で作りこみました
- 実際に提出前提のフォーマットで書き出してみると、記述の過不足などがよりクリアになります
- 同僚に定期的にチェックしてもらい、フィードバックを取り込む
上記の結果、昨年11月はじめの時点で、いつでも論文を提出できる状態にできていました。
そして、11/14に公募が開始されたので、早速論文を提出しました。
渋い反応
しかしながら、実際に論文を提出してみると、ネガティブなフィードバックばかりが返ってきました。
いずれにも共通するのは、「too general」というもの。
私はこれを、「記述範囲が広く一般論的な内容になってしまっているので、もっと具体的で踏み込んだ内容にして欲しい」という意味に捉え、年末年始の休みを使って、徹底的に詳細な内容に書き換え、再度提出しました。
しかしながら、以前よりはポジティブなフィードバックになったものの、やはり「too general」とのこと。
この時点で、何かがおかしいと気付きました。
ピボット
私が選択したトラック(=セッションカテゴリー)は、前回のAgile2014と同じ「Experience Report」でした。 このトラックは、アジャイルを試してみた経験談を深掘りするもので、具体的には「テスト自動化による想定外の学習効果」や「モブプログラミングのon-boardingへのプラスの効果と改善すべき点」といったものが求められます。
一方で私の論文は、SET(Software Engineer in Test)としての戦略策定方針やそのためのステークホルダーからの支持の得方、問題プロジェクトの課題発見とその解決方法、我々が構築した新しいコンセプトのテストツールなど、ここ数年の活動全体を整理・総括したもの。
どうやら、「Experience Report」トラックで求めているものよりも、はるかに広範で多岐にわたる情報をまとめすぎたようです。端的にいうと「書きすぎ」でした。それを「too general」と指摘され続けていました。
一方で私としては、論文でまとめたレベルの全体的な話をしたい、そのレベルの知見をまとめて今後の自身とチームの活動に活かしたい。登壇はしたいけれども、そこは譲歩したくない。
そこで、締め切りまで1ヶ月を切った1月の中旬、私は「ピボット」を選択しました。
改めてトラック一覧を確認し、自分の話したい事に近しいものを探してみたところ、「Development & Testing Practices」を発見。こちらは、30分だけ話せる「Experience Report」とは異なり75分も話せる、論文以外の過去の発表資料も評価対象にしてもらえる、そして何より、自分の話したいこととトラックの求めているものとが一致している!
そこで、ピボットを決意した次の日に、早速「Development & Testing Practices」に公募を提出し直しました。
ちなみにAgile20xxはこのように、トラックごとに応募方法や基準が異なります。
著名人からのフィードバックとサポート
ピボットを決意し公募を提出した次の日、早速ポジティブな反応が返ってきました。
まず、私にTDDを叩き込んでくださったJames Grenningさん。久々の再会です。
テスト駆動開発による組み込みプログラミング ―C言語とオブジェクト指向で学ぶアジャイルな設計
- 作者:James W. Grenning
- 発売日: 2013/04/24
- メディア: 大型本
次に、Agile Testingの考え方で日々お世話になっているLisa Crispinさん。まじか!
実践アジャイルテスト テスターとアジャイルチームのための実践ガイド (IT Architects' Archiveソフトウェア開発の実践)
- 作者:Janet Gregory,Lisa Crispin
- 発売日: 2009/11/28
- メディア: 大型本
他の方たちからもフィードバックをいただきましたが、いずれにも共通したのは、「方向性は合っている」「より多くの人にアピールできるようにここをこう直そう」という、公募採択とその後を想定した具体的なものでした。
それらのフィードバックをもとに、公募内容の改善のやり取りを続けた結果、採択となりました。勇気を持って選択したピボットに成功したと言えます。
まとめ
公募を出す際も、アジャイルの考え方や方法論は役に立つぞというのが、個人的な所感です。
- 小さく準備しておく
- いつでもリリースできる状態にしておく
- フィードバックをすぐに取り込めるようにしておく/取り込む
- 必要であればすぐにピボットできるようにしておく/する