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チームの成長に見る、アジャイルコーチとしてのアンドンの引き方

アジャイルコーチとしてチームの成長を支援していると、アウトプットの急増や意思決定スピードの向上など、チーム・メンバーの急激な成長を目の当たりにする機会があります。その瞬間は、コーチにとっての至福の時間でもあります。

一方で、コーチの予想や期待に反して、チーム・メンバーの成長が停滞しているように見える時もあります。そのような場合、コーチは強いストレスを感じてしまうことがあります。

今回は、チーム・メンバーの成長が停滞しているように見える時のコーチとしての心構えと、ストレスを感じた際の対応策について書いてみます。

1. 停滞しているように見える例と、その裏側で起きていること

  • チーム全体に質問を投げかけても、発言・リアクションがない/非常に少ない
    • チーム・メンバーの当事者意識が足りないとも取れますが、それ以外に「そもそも誰に向けた質問なのかが不明確なので反応できない」「お互いをまだ良く知らないので反応をためらってしまっている」「反応の仕方を熟慮して遅れているだけ」といったことも考えられます。
  • 何かアクションを起こそうとする際、都度コーチに許可を求めてくる
    • 指示待ちの文化から脱却できていないとも取れますが、それ以外に「判断の根拠が明確でないので困っている」「アクションを起こすことに不安を感じている」「勇気を出すのに慣れていないだけ」といったことも考えられます。
  • アドバイスをしても、すぐにそれを取り入れて結果を出そうとしない
    • チームやメンバーごとに、理解や習得のステップは異なります。アドバイスした自身と同じステップ・スピードで動くことを期待すること自体が間違いです。
    • むしろ、「言うことを聞かない」と感じてしまう場合、それはコーチとしてのアラート・危険サインです。


2. コーチとしての心構え

そもそもコーチは、チームのオーナーシップを持ちません。チーム・メンバーが中心であって、彼女ら/彼らを無理やりコーチの考える理想に従わせるのは、コーチングではなくただの強制です。

アジャイルコーチングに関する書籍『Coaching Agile Teams』でも、コーチのチームへのあるべき接し方を「Light-touch」と表現し、コーチはチームのオーナーシップを持たず、あくまでチームに委ねる形で振る舞うよう明記しています。

具対的な振る舞いとしては、コーチの気付きとして問題の存在やヒントを示すレベルに留め、指示や解法は出さないのが望ましいです。

3. コーチとしてアンドンを引く時

とは言うものの、コーチも人間なので、ストレスは感じます。ストレスに早期に気付き対処できる仕組みがあった方が良いでしょう。*1

具体的には、以下のことを感じ始めたら、コーチとしてのアンドンを引いて、仕事を一旦止めて、自身を振り返ってみることをオススメします。

  • チーム・メンバーの成長の停滞
  • コーチとして成果を出すプレッシャー
  • チーム・メンバーの振る舞いが「理想的」ではない

というのも、上記を感じること自体、コーチとしての自身のメンタル面での変調のサインです。メンタルの不調は、コーチのプロセスのバグのようなものです。なので、スクラムフレームワークなどでのチームのプロセス改善と同様、自身のプロセスも定期的に見直しましょう。今の作業を止めてでも。

4. まとめ

コーチは、チームのオーナーではありません。また、チーム・メンバーの成長の程度とスピードは、各々異なります。そこにコーチとして貢献できるポイントはあっても、何かを強制するポイントはありません。

それでも、コーチもストレスは感じます。チーム・メンバーの成長などに焦りや苛立ちを感じ始めたら、コーチとしてアンドンを引くサインです。一度仕事を止め、自身を振り返りましょう。

コーチとしてのinspect & adaptの対象は、基本はチームですが、自分自身を対象にしても良いでしょう。少なくとも、してはダメだと明記している論文・書籍を、私は見たことがないです*2。コーチとしてのスキルを自身の改善にも適用して、よりチームに貢献できるよう「油を指す」ことも、時には必要です。

先ほど油を指した人より。

参考書籍

アジャイルコーチ、および広くコーチングに関してまとまった書籍です。コーチがチームのオーナーシップを持たないことや、チームの成長度合いによってteaching・facilitating・advisingを使い分けようといった、実践的な内容が多く含まれています。また、Scrum AllianceCertified Team Coach (CTC)の取得に際しての参考書籍としても紹介されています。ちなみに、英文はちょっと難しめです。

人それぞれ前提とする認識・信条が異なることと、そのズレが怒り・ストレス・トラブルになることが明記されています。「他者は自分と同じであるべき」という、我々人間がつい思いこみがちな「認識のズレ」を正すのに良い書籍です。

上述のアンガーマネジメントと一緒に読むことで、他者との対立を生じさせにくいコミュニケーション方法を習得することができます。また、人間観察にも良いヒントが多く含まれています。

*1:"Good intention doesn't work, only mechanism works!" by Jeff Bezos

*2:もしあれば、純粋に私の勉強不足ですので教えてください。